はじめに
チームをリードする立場となり、日々会議を仕切ることは多くなった。
ただ、どこか会議の運びが上手くいっていないという違和感は自分の中にあり、その解決策として手を出したのが『ファシリテーションの教科書』という本であった。
ファシリテーションの教科書: 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ
- 作者: グロービス,吉田素文
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2014/10/31
- メディア: 単行本
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端的にいうと、控えめに言って最高の書籍であった。自分の中に課題感があったこともありスッと内容は入ってきた。以下では、その内容について紹介していこう。
ファシリテーションとは?
ファシリテーションとは、メンバーや関係者の知恵とやる気を引き出し、深い納得に詩付けられた合意を実現する協力な武器であり、同時に人の能力を育成するうえで肝となるコミュニケーションスキルのこと。まさに、リーダーが果たすべき役割である。
ファシリテーションは、コミュニケーションスキルを超えてリーダーシップのあり方そのものともいえる。
トップダウンで戦略を決めてもメンバーのモチベーションは上がらない。「引き出し、決めさせ、自ら動くことを助かる」というスタイルに転換することが必要であり、それこそが「ファシリテーションの本質」である。
腹落ちしているか?
人々の意欲を高めるためには、メンバーに「腹落ち」させることが必要である。
「腹落ち」とは、「目的と理由」を深く理解し、「具体的なあるべき姿」を自ら描き、「ワクワク感や当事者意識」をもてるレベルまで納得するということである。これをいかに実現するかが問題だ。
ファシリテーションはメリットは大いにあるが、皆壁にぶつかるものだ。 それも当然。ファシリテーションとはコミュニケーションに関するすべての要素を統合した、最高難度のスキルなのだ。高度な思考力、理解力、表現力が必要とされる。一朝一夕には身につくものではない。
ファシリテーションを上手く行うためには、事前に十分な「仕込み」と、議論の場で参加者の思考を適切に導く「さばき」の技術が必要である。
また、それだけでなく以下の2点が不可欠。
- 「問題解決」「構造的な話の理解」ができる思考力
- 人の可能性を信じ、意欲、能力、知恵を引き出す」という基本姿勢
もうこれを聞いただけで尻込みしてしまうほど難易度の高いスキルだ。以後では、このハードなファシリテーションの実践法について解説が続いていく。
仕込み
仕込みとは、「議論の『出発点』と『到達点』を明確にする」「参加者の状況を把握する」「議論すべき論点を洗い出し、絞り、深める」の3点を行うこと。
議論の『出発点』と『到達点』を明確にする
合意形成ステップのどこからどこまでを扱うのかを明確にすることで、目的が明確化され議論が進みやすい。また、参加者も迷わなくなる。
▼合意形成のステップ
- 場の目的の共有・合意
- アクションの理由の共有・合意
- アクションの選択・合意
- 実行プラン・コミットの確認・共有
参加者の状況を把握する
意思決定をする上で、本来重要な役割を果たすべき人を見つけ、その人の持つ情報、知見、考えを引き出すことが大事。単に声が大きい人の意見で決まらないようにする。
議論すべき論点を洗い出し、絞り、深める
出発点から到達点までどうつなぐかを考える必要がある。
つなぐ=合意形成に至るために、「何について」「どのように」議論するのかを具体的に設計することである。
その設計で最も注目すべきものが「論点」である。
ファシリテーターは、論点を十分に理解・把握しておくことが必要である。
論点とは、意見や主張そのものではなく、「その意見や主張は、どういった問いに答えているのか?」もしくは「その意見や主張が、どのようなポイントについて考えた結果、導かれているのか?」ということ。
例)「部品調達元を切り替えるか?」という共通の論点に対して、「品質は担保できるのか?」と「コストは今より安くなるのか?」という異なる論点を元に議論が行われる。
論点を把握することは難しい、どうすべきか?
「あるべき議論の論点の地図」をつくり、様々内見を即座に位置づけられる状態を頭の中につくっておくことが大事。
「論点の地図」をつくるには、「広げる(洗い出す)→絞り込む(重み付け)→深める」という順番を意識するとよい 。
論点を広げる
論点を広げるためには、以下の方法がある。
- テーマ自体から論理的に洗い出す
- フレームワークを活用する
- 合意形成のステップを細分化して論点を押さえる(おすすめ)
絞り込む
参加者を想定して、「到達点に至る上で合意を形成する必要のあるものかどうか?」をポイントとする。
また、合意形成のためには必要だが、皆が同じ意見で議論をする必要はない点については「確認する論点」として参加者の確認をとる。
議論をする必要はあり、かつ意見の対立もあるがその場にいる参加者が持っている情報や意見の準備状態では結論が出せない場合は、「この論点は重要ですが、今ここでは結論が出せないので、次回までに各自準備をした上で再度議論しましょう」という形で「置いておく論点」とする。
まとめると、以下の4つに分類して考える。
- 議論すべき論点
- 議論すべきでない論点
- 議論する必要はないが、確認する論点
- (今は)置いておく論点(後に議論する論点)
最終的に、論点相互において「上下の関係」と「前後の関係」を意識する。
- 上下の関係:大きな抽象度の高い論点とそれを具体化・細分化した論点のこと。
- 前後の関係:議論すべき順番がある論点同士の関係のこと。
問題解決のステップ実践
先程の「合意形成のステップ」をさらに細分化する。
▼合意形成のステップ
- 場の目的の共有・合意
- アクションの理由の共有・合意
- アクションの選択・合意
- 実行プラン・コミットの確認・共有
アクションの理由の共有・合意を3つに細分化 →「問題意識の明確化(What)」「問題箇所の特定(Where)」「真因の追求(Why)」
人は What や Where が曖昧なまま適用な Why に基づき How を決定してしまいがち。
問題意識の明確化(What)
「あるべき姿」と「現状」を明確化し、ギャップである「問題意識」のズレをなくす。
問題箇所の特定(Where)
Why に行く前に Where を明確にする。解決すべき問題は2つあるかも。議論を効率的に行うべく、問題箇所を特定する。
真因の追求(Why)
幅広い知識と具体的な情報が不可欠であり、「衆知を集める」ことが最も効果的なフェーズ。 MECEに考えることも必要だが、それだけでは真因にたどり着けないことも。
理想状態をイメージし、どんな条件が揃えばそうなるのかを考える方法も有効。 「他に全く違うパターンで問題が生じることはないか?」を問いかけてみるなど、あらゆる可能性を探る。
※人の能力や意識で「なぜ」を止めない→再発防止策に落とせないから。また、犯人探しは積極性を削ぐためというデメリットもあるため、構造的な課題まで深掘りするようにする。
実行プラン・コミットの確認・共有
メンバーが対策案の実行に向け、実際に動き出せるようにすることが目的。具体的に定める。
いつまでに、何を、どの程度、どのように、誰が責任者で行うのか。 特に、「作業の目的とゴールイメージを関係者が共有すること」と「責任者を明確にすること」は大事な要素。
さばき
「さばき」=議論の現場で参加者から意見を引き出し、適切に導くコミュニケーションの技術である。
ファシリテーターは「主役」ではなく「演出家・ディレクター」といった役回りが理想である。
さばきの基本動作は以下の4点だ。
- 発言を引き出す
- 発言を理解し共有する
- 議論を方向づける
- 結論づける
発言を引き出す
- なぜこの場にいるのか、当人にとってどのような関係があるのかを最初に触れておくとよい。
- 立場上発言をしにくい人がいる場合には、躊躇する原因を取り除くアシストを行うとよい。
- 「◯◯さんの立場からすると、この案には当然懸念を感じると思いますが、いかがでしょうか?」
- 「常に最前線でお客様に接している皆さんの意見を聞きたい」
- 「まだ当部署の状況を知らないフレッシュな目で見て気づいた点をあげて欲しい」
発言しやすくするための刺激を与える
- 考えるべきこと、答えるべきことを絞って意見を聞くようにする
- 「まずは賛成か反対かの結論だけ」
- 「意見は別として、検討すべき点に絞って」
- 論点や切り口を示してあげる
- 「効果と効率の面から意見をいただきたいのですが」
- 「ここでは新製品開発の意思決定プロセスに沿って、、、」
- 別の意見・反対意見を求める場合には、それをはっきり示す
- 「他に検討すべき点はないですか?」
- 「ここまでは賛成という意見がおおかったですが、逆に反対だという意見はありますか?」
- 話す内容や説明の仕方、意見を出すレベルを具体的に提示する
- 「A、Bどちらの案がよいかの結論と、その案を推す理由を述べてください」
- 「まずは考えられる原因をできるだけたくさん洗い出してみよう」
- より具体的な状況を示し、イメージを刺激する
- 「あなたがこの件をお客様に説明するとしたら、質問されそうなことは何でしょうか?」
- 家庭によって制約を外して意見を言いやすくする
- 「仮に予算の制約がないとして、効果的だと思う案はないでしょうか?」
- 「いま進んでいる検討項目はいったん忘れて、そもそも何を検討することが必要か?」
もっとも大事なのは、心から参加者の発言を聴きたいと想い、それをしっかり態度で示すことである。
発言を理解し共有する
ファシリテーターの聴く基本ステップ
- 発言を聴き、理解する
- 発言を受け止めたことを発言者にはっきり示す
- 理解を確認する
- 参加者全員が発言を理解できるようにする
※ 3,4は省略したほうが良い場合も多い。流れを切ってしまう恐れがあるため。
理解する=その発言が議論全体の中でどのように位置づけられるのかを把握すること。 →発言の後に、どの方向に議論を進めるべきか、を判断しないとならない。
常に「So what?」を心の中で発してみるとよい。そうすることで、主張を掴むことができる。
まとめると、ファシリテーターが参加者の発言を聴く際には、「何のために(目的)」「何について(論点)」「何を(意見・主張・結論と根拠・理由)」言っているのかを掴むことが必要。
発言を深く理解する
人の話を正しく、深く理解するために役立つのが「論理の三角形」。
「論理の三角形を意識して話を聴く」とは、論理の三角形のいろいろな部分が欠落した状態で話される相手の話を、「狩猟と根拠」の構造の中に置いてみて整理する。その上で、欠落している部分は何か、話し手が説明してない部分には本来なにがあるべきか、を考えながら話を聴き、相手の論理展開を推定しようとすることである。
理解のためにすべきこと
- 主張を明確にする
- 「隠れた前提」を確認する
- 演繹と帰納のいずれかの論法を想定
- 演繹の場合、正しい前提を用いているのかに注意
- 帰納の場合、逆の事例にも着目。各事例で、共通点と違いを分析し論理展開の妥当性をチェック
- 欠けている論点を補完する
これらの手法は、普段から文章を読む時などに意識しておき習慣化しておくとよい。
議論を方向づけ、結論づける
参加者が納得感・達成感を持ちながら、話が先に進んでいくというのが望ましい議論の姿である。 その上で大事なのが、ある結論に参加者が納得感を持って合意する上で、議論すべき「論点」が十分に議論されているかどうかという視点となる。
今議論すべきでない論点への対応は下記の2点。
- 「そもそも議論する必要がなく、その議論に時間を使うべきでない論点」
- 「議論すべきだが、今、ここではない」
議論を止める際は「説得」ではなく「問いかける」
- 発言そのものを受け止め、理解を示す
- 本来議論すべき論点に意識を向けてもらう
- (必要なら)その論点で議論を続ける必要性について問う
- 止める発言や論点が活きる機会・場面が別にあることを示す
「まとめる」、そして「結論づける」
「論点と結論」をセットで要約し、参加者に確認する。
「議題の到達点」と現状を比較し、得るべき結論が出たのか、参加者の認識や意欲などは目指す状態になったのかを確認する。
到達点までいっていなくても、どういう段階までいったのか、そして、この後に何を決め、どこまで進めることが必要なのかを明確にすることが肝要である。
合意が形成されていない、結論が出ない状態で目指すべきは、「条件付きの合意」を形成し、それを会議の結論とすることである。
条件付きの合意なしに「次回また議論しましょう」では、納得感が薄れるし、次回の会議でまたゼロからのスタートとなりかねない。
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本記事では、ファシリテーションの教科書の内容についてまとめてみました。書籍には、様々な事例があり、読むとさらに理解が深まるので、おすすめです。
ファシリテーションの教科書: 組織を活性化させるコミュニケーションとリーダーシップ
- 作者: グロービス,吉田素文
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2014/10/31
- メディア: 単行本
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