2017年頃より、「情報銀行」というワードが紙面を飾るようになっている。総務省主体で認定制度の在り方についても議論が活発になされている。
情報銀行とは、簡単にいうと、個人から個人情報を預かり、個人の信託に基づきその情報を第三者に提供し、それによる得られた対価あるいはサービスを個人に還元するような仕組みである。
「個人情報は企業のものではなく個人のものである」という発想のもと、生活者一人ひとりが自らのデータのオーナーとしてコントロールしていくイメージだ。GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)を中心に個人情報を企業が自らの収益化に利用して莫大な利益を稼ぐのに対するアンチテーゼともいえるだろう。
そんな「情報銀行」だが、この仕組み及び言葉は英語からの翻訳後ではない。実際に、「Information Bank」とググってみても、東京大学の柴崎教授の TED Talk のあたりがトップにでてくる一方で、英語圏の記事はほとんどない。
さて、この言葉はどこから出てきたのだろうか。
前述したとおり、ここ10年のスパンでいうと、柴崎教授が名付け親と言えよう。TEDxTokyo でのトークは2012年だ。
しかし、それよりはるか前に「情報銀行」という言葉を用いていた人物がいた。星新一だ。
それも1970年。今から48年も前だ。大阪万博が開催され、高度経済成長期も後半に差し掛かかっていた頃。SONYが10万円を切る電卓を発表したことがニュースになった頃。その頃に「情報銀行」という言葉を使っていた。もはやスゴいとしかいいようがない。
「情報銀行」が使われているのは『声の網』という作中である。こちらの作品、内容としても非常に示唆に富んでいる。
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ネタバレはよくないので、「BOOK」データベースより引用しておく。
電話に聞けば、完璧な商品説明にセールストーク、お金の払い込みに秘密の相談、ジュークボックスに診療サービス、なんでもできる。便利な便利な電話網。ある日、メロン・マンション一階の民芸品店に電話があった。「お知らせする。まもなく、そちらの店に強盗が入る…」そしてそのとおりに、強盗は訪れた!12の物語で明かされる電話の秘密とは。
ジョージ・オーウェルの『一九八四年』にも通ずるものがある。
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脱線したので話を戻すと、星新一が描いた「情報銀行」といういわば思考実験が、48年の時を経て、今まさに社会実装されようとしている。
1970年の当時からすると、現代は情報量は爆発的に多くなっている。個人情報というと漏洩リスクといったネガティブな面が取り上げられやすいが、それらの情報を使うことによって生活の利便性が飛躍的に増すということももちろん考えられるし、それをするための情報銀行である。
情報銀行、国としても運営事業者としても生活者としても新たな取組となるが、適切なステップを経てすべてのステークホルダーにとってハッピーなものになればと思う。星新一の作品はそんな思いを込めたメッセージなのではないか。